ドレスの迷宮
この数年来のコロナ禍によって世界のすべてが変化を強いられ、ファッション表現もまた岐路に立たされているかのように見えます。
コレクションのあり方で言えば、フィジカルなランウェイは激減し、ファッションクリエーターたちはデジタル世界に活路を求めました。最初それは、無観客のランウェーショーを映像化して発表するスタイルで出発しました。まもなく、デジタルな映像ならではの技術的可能性に着目したクリエーターによって、多様な映像表現が試みられるようになりました。そして、気がついて見れば、私たちはメタバースとか、NFTとか、ブロックチェーンとかの、耳慣れない言葉が氾濫するあらたな世界のただ中に立たされていたのでした。
この地平の先に何があるものか、だれにも知る由はありません。ただ、ほとんど無限とも思えるファッション表現の可能性が見え隠れするばかりです。もしかすれば、この新たな技術によってファッションクリエーターは、定型やら制約やらに縛られることのない、完全な表現の自由を手にしたのかも知れません。
今回のZIN KATO x Yuki Mitamura 2022 A/W COLLECTIONでは、そんなデジタル表現の究極的な可能性を探っています。試みたのはフル3DCGによる、ファッションとアートの融合です。
このプロジェクトの発足に当たって、長年デジタルクリエーションに取り組んできたYuki Mitamuraさんとの出会いがあったことを、たんなる偶然とは思えません。
あのGAFAがいまだ黎明期にあった2000代の初頭、東京藝術大学デザイン科の学生としてあらたな表現を模索していた彼女は、デジタルアートの可能性に着目します。それは当時、かならずしも周囲の理解を得られることのない孤独な営みでもあったようですが、20年の時を経て、いまようやく時代が彼女に追いついたのです。
Yuki Mitamuraさんとの回を重ねる対話の中から今回の作品が徐々に具体化してゆくさまを目のあたりにするのは、スリリングかつエキサイティングな体験でした。
自分はアナログの極致のような表現を旨とするファッションデザイナーですが、今回のコラボレーションを通じて、壮大なデジタル表現も結局は繊細なアナログ的技術の集積の上に築かれることを学び、意を強くしたことでした。
生と死、男と女、過去と未来、そしてファッションとアートの対比と融合、この作品に、そんな象徴性を読み取っていただければ幸いです。
ZIN KATO
北海道出身。文化服装学院デザイン科卒業。第33回装苑賞受賞後、1975年に株式会社人を設立。以来、オーナー兼デザイナーとして一貫した理念『繊細でクチュール感があり、時代にとらわれない服』に基づきクリエーションを続けている。2001年~2006年ロサンゼルスに直営店を運営、アメリカ全土に卸業を展開。東京コレクションには2005年から参加。ZIN KATOはこれまでファッションゲームアプリ「Platina Girl」とコラボレーションし、アバターファッションのデザインを行い、Amazon Fashion Week TOKYO 2018 S/S のフィジカルランウェイショーにて披露するなど、デジタルとフィジカルを融合した制作活動に積極的に取り組む。
2007年東京藝術大学デザイン科卒。同年デザイナー・WEBエンジニア・クリエイターとして独立。映像画像・描画研究。
デザイナーZIN KATOが50年の間に構築した衣服の世界観を基に、クリエイターが物理的な衣服の枠組みを超え、持続可能な代替手段、デジタルによる表現描写を行います。創作したデジタル衣服やアート作品は、メタバースをはじめとした様々なプラットフォームへの実用化も視野に入れています。ブロックチェーン上で共通の情熱と関心を共有する個人、デザイナー、アーティスト、クリエイターで協力して管理・運営されるコミュニティの参加者は最新のアップデートを受け取ることができます。